テレフダ

印刷で失敗した話

正体隠匿系カードを例に添えて

ボードゲームデザインアドベントカレンダー2018

 この記事はアドベントカレンダー2018の12月20日(木)に寄稿した話です。前日は、マーチヘアゲームスさんの ダイスゲーム分類事始め でした。明日はホリケンさんになります。私の話は泥くさくて恐縮ですが、デザイナーの方々に少しでもご参考いただければ幸いです。

アナログゲーム制作での1番痛い失敗は何か

 結論を言いますと、1番痛い失敗は「印刷ミス」でしょう。その非がデザイナーにあるにせよ、印刷所にあるのにせよ、デザイナーはリカバリーに労力と時間と出費をかけることになります。最悪、ゲームとして売れなくなってしまい大幅な赤字となると、デザイナーは引退に追い込まれます。また、長くデザイナーをしている人の場合は、顧客の信用を失いかねません。
 そのような重大なものでありながら、なかなか失敗談を聞くことは難しかったりします。インターネットで探せば出ては来るのですが、情報がひとそろいになっておらず、またその信頼性がわかりません。後発のためにもデータベースとしてまとめたほうが良いものだとは思います(やっていませんが)。

失敗、その経緯

今回の経緯をまとめると、以下のとおりです。

すべてのカードの裏面を同じ絵柄にしたかった→微妙に違う→刷り直し(課金)→だいたい同じ絵柄になった→良かったね(良くない)

ガン札

 なぜ同じ絵柄にしたいかというと、カードの中身がバレるのを避けるためです。
 例として、トランプを挙げます。以下にトランプの裏面の代表的な画像を載せます(どうでもいいですが、よく見るとシュールな絵ですね)。

 ここでは、トランプのジョーカーのカードだけ裏面に傷がついてしまったとしましょう。誰が見てもそのカードだけ傷がついている。その場合、ジョーカーを持っているかどうかがひと目でバレてしまいます。バレると、そのゲームが一気に陳腐化します。たとえば、その状態でババ抜きをやっても、まったく楽しくありません。ババがどのカードかひと目でわかるからです。
 さらに嫌な状態が、誰が見てもわかる傷ではなく、注意深く目を凝らすことでわかる傷があるときです。これではどのような優れたゲームシステムであっても、ただ目の良さと記憶力を試すゲームになってしまいます。花札で言うところの「ガン札」と呼ばれる不正行為です。ただし、非意図的に傷がついてしまった場合、これを不正とみなすのは難しいです。花札ではなく麻雀なら、哲也の印南を思い出す人もいるでしょう。つまり、印南がやったことは不正ではないですが、轟盲牌は不正ということになります。

色ブレ

 今挙げた例では「傷」が原因で見分けがついていましたが、その他にも区別がついてしまう原因は存在します。

 今回私が失敗したのは裏面のデザインの色ブレでした。失敗したカードの写真を載せます。

 写真なのでわかりづらいかもしれませんが、いくつかのカードの黃味が強いのがおわかりでしょうか?
 これだけのことでカードを廃棄しました。なぜでしょうか?
 カードが正体隠匿系の「役」を表していたからです。正体隠匿系はババ抜きのババと同じようにカードの正体を隠さなければゲームが崩壊してしまいます。

チェック

 今回の失敗は何を原因としているでしょうか?
 直接の原因は色ブレにあります。しかし、これはCMYKの混色を行うプロセス印刷では避けづらいことです。この問題を完全に避けたいのなら、CMYKのうちどれか1つだけを選び混色せずに単色とするか、特色を使うかでしょう(それでも、濃度ブレとローラー跡の懸念は残ります。単色であっても個人的には濃度100%はオススメしません)。
 しかし、かけだしの同人ゲームのデザイナーにとっては、どちらの方法もあまり現実的ではありません(ただし、いずれは解消するかもしれません)。したがって、今回の場合、まず初めに取るべきだったのは、印刷屋さんに相談することでしょう。「ここからここまでのカードの裏面は、見分けがほとんどつかないくらい同じように印刷できますか?」と確認するだけでも、より良い結果が得られたでしょう。
 気をつけなければいけないことですが、これは印刷をかけるたびに毎回やる必要があります。同じ印刷屋さんであっても、印刷方式や印刷機の調子などの条件が変わる可能性はいつだってあります。

アクション

 結局、その後どうなったのかというと、最終的なデザインを以下のように変更しました。

 これでほとんど区別がつかなくなりました。カードはハーフサイズ(63mm×44mm)で、文字の大きさは最大9ポイントにしています。色があるところがこれだけ小さければ識別は難しくなります。
 人間の目というのは不思議なもので、少なくとも色を隣り合わせにしなければ(つまり、色の間に白や黒などを入れれば)、区別がつきづらくなります(それでも色の識別能にすぐれる人には見分けがついてしまう恐れは残ります)。
 通常、「枠」と呼ばれるデザインがその役割を担います(枠はカードのフチのパターンによるガン札を避ける目的もあります)。今回は、私の思い入れ(枠自体がガン札の対象になりやすい)で枠は採用しませんでしたが、通常は採用される手段です。
 そんなこんなでガン札を防いだ代わりに私の7万円がなくなりました。

 

印刷データ通りに印刷されるという思い込み

 正体隠匿系のカードデザインについては印刷屋さんにちゃんと相談してから印刷したほうが良かったなと思います。
 なお、今回の件ですが、事前に校正刷りはお願いして確認しており、その時点では色ブレはないように見えました。それでも起こってしまったということで、いつかあなたの身にも起こる問題かもしれません。
 そもそも、印刷データと印刷物は全く違う物です。その関係は、計画と実行です。夏休みの宿題を振り返れば心当たりがある方もいらっしゃるでしょうが、計画通り実行するには準備とゆとりが必要です。
 話が飛びますが、機械工学ではゆとりのことを「アソビ」と言うそうです。ゲーム作りにおいても適度にアソビを入れて開発していきたいものです。